そして俺は、契約妻に恋をする
▽真司
▼真司
予想はしていたが――、
桜井家の義母もうちの母も、ありえないくらい連絡を取り合っていなかった。見て見ぬふり、俺と香乃子の離婚は両家にとって触れてはいけないパンドラの箱になっていたようだ。
神宮寺にとっては選挙、桜井家にとってはせっかくできた現役大臣との縁をそう簡単に手放したくはないんだろう。
俺や彼女には関係ない話だが、今回ばかりはよかった。おかげで一年余りこのままでいられたのだから。
『真司さん、いったいなにがあったの? 心あたりくらいはあるんでしょう?』
義母にそう聞かれて、答えに窮した。
思いあたるのは、ひとつだけ。
『彼女は最初からこの結婚に乗り気ではなかったようなんです。この一年でなんとか彼女の気持ちを変えたいと思っていたのですが』
香乃子の気持ちを変えることができなかった、俺の力不足。
『それで、真司さんはどうしたいと考えているの?』
『とにかく彼女と会って話をしたいんです』