そして俺は、契約妻に恋をする
 理由を知りたい。嫌われているのだとしても、香乃子自身の口から聞かなければ納得できない。

『香乃子と離婚したくないという気持ち、信じていいのね?』

 俺は大きく頷いた。

『はい。香乃子さんと一生添い遂げたいと思っています』

 義母には俺の気持ちが伝わったんだろう。桜井家を辞して間もなく電話があった。

 香乃子と会う約束を取りつけたから、来てみたらどうか言ってくれたのだ。

 急ぎ駆けつけたのはいいが、まさか子どもがいるとは。

 しかも俺によく似たかわいい女の子――。

「着いたわ」

 ハッとしてベビーカーから視線を上げると、目の前にアパートがある。

 てっきりその先に見えるマンションかと思って油断していた。

「ここに住んでいるのか?」

「はい」

 案内されたのは四世帯が住むアパートで、昭和を思わせる古い建物だ。

 道路を南にして奥に延びている。彼女が進むのは一階の奥。東側が入り口で窓があるが、どう見ても日当たりは悪い。

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