そして外交官は、契約妻に恋をする
 資産家に生まれて、家政婦がいるような家に育った彼女が選ぶには少々安普請過ぎないか?

「どうぞ」

「ありがとう」

 セキュリティーが心配になるような鍵で開けたドアの中は、予想に反して明るく見えた。

 リフォームがされているのか壁紙は白くきれいで。家具はどれも優しいオフホワイトで統一されている。柔らかいグリーンのカーテンと、そこかしこにある小さな観葉植物が部屋を飾っていた。

「座っていてくださいね。真倫の着替えをしちゃいますから」

 赤ん坊を抱いた彼女が隣の部屋に行くと、あらためて部屋を見回した。

 リビングにはテーブルがひとつと、二人掛けのローソファーがひとつ。クッションがいくつかあって、家具は最低限度しかない。慎ましい暮らしが見てとれた。

 そして、子どもを座らせる椅子がある。おもちゃ箱も……。

 隣の部屋から香乃子が子どもをあやす声が聞こえて、無意識のうちに振り向いた。

「あっ、ごめん」

 いきなり目が合って苦笑する。

「狭いですよね」

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