そして外交官は、契約妻に恋をする
「あまりにもしみじみと言うから。――ありがとうございます」

「だって、本当なんだから仕方がないよ。それに、今日こっちに帰ってきたんだが、考えてみたらろくになにも食べていなかった」

「えっ? 今日、帰ってきたばかりなんですか?」

 彼女は目を丸くするが俺にしてみれば当然だ。

「ああそうだよ?」

 最優先は君なんだからと胸の内で続ける。

 まさか今日の今日会えるとは思わなかったが、本当に会えてよかった。

 しかも俺の子どもまでいるという幸福なおまけつき。こんな美味い飯まで食べられるなんて最高のスタートだ。

 不意に香乃子のスマートフォンが音を立てた。

 彼女は食事を中断して立ち上がり、少し離れて電話に出る。

「そうですか。それはよかったです。じゃあ、小鯵の南蛮漬けは明日も作りましょうか」

 小鯵の南蛮漬け?

 盗み聞きは失礼だと思いつつ、話しの内容が気になる。時刻はすでに夜の八時を少し回っている。いったい誰なのか。

 香乃子はクスクス笑ったりして、電話を切った。

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