そして外交官は、契約妻に恋をする
 興味があるのか、彼は海運業界に関する本を取りページを捲る。

 シップブローカーになりたくて一生懸命勉強をしたけれど、結局なれずに終わってしまうのか。

 付箋紙を貼りマーカーをつけて繰り返し読んだ努力は、これからの人生で報われるときがあるのだろうか。

 神宮寺家は代々官僚や政治家を生みだしてきた一族と聞く。船は関係ない。桜井家を離れてしまえば、海運業界とは関係なくなって、無駄な知識で終わるのだ。

 ぼんやりとそんなことを思っていると、彼の手が別の本に伸びた。

「薬膳料理?」

「あ、それは趣味というか、興味があって一時期教室にも通ったんです」

「へえ、ちなみに、漢方と薬膳ってどう違うの?」

「漢方は生薬を使った医学ですけれど、薬膳は健康にいいお料理ですね」

「そうかそうか。なるほど」

 彼に聞かれるまま、体質に合った料理の話になったりして時間はあっという間に過ぎた。

「香乃子、食事の用意ができたわよー」

「はーい」

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