そして外交官は、契約妻に恋をする
 消えるどころかあらためて再認識させられた気さえする。ロウソクのように儚い炎のはずが、どんなに揺れても消えてはくれくれない。

「香乃子。なにがいいのか私にはよくわからないけど。でもね」

 リエちゃんはにっこりと笑顔を向ける。

「私は香乃子に幸せになってほしい。もっともっと貪欲に幸せを掴んでほしいと思ってる」

「貪欲?」

「そうだよ。幸せって案外そこらへんに転がってるのに掴まないと逃げちゃうんだって。自分から掴もうって気持ちがないと、幸せは自分の心に来ない」

 真剣に聞いていると、リエちゃんは照れたように笑う。

「なーんてね。うちのお母さんが言ってた」

「わかる気がする。さすがリエちゃんのお母さんだ」

 私の幸せはと考えて、真倫を抱いてあやす真司さんが脳裏に浮かんだ。

 ズキッと心が痛む。幸せに見えても、手を伸ばしちゃいけない。

 誰かを傷つけてまで掴んではいけないものだから……。




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