そして外交官は、契約妻に恋をする
 リビングを見回す仁に「ありがとうな、仁」と礼を言う。

「本当に助かったよ。早速コーヒーでも淹れてみるか」

 仁が手土産にコーヒー豆を持ってきてくれた。彼をソファーに促して、コーヒーメーカーのセットをする。

 ガガガとミルの音を聞きながらこの一年を振り返った。

 一年間、ただなにもしなかったわけじゃない。

 俺は香乃子を捜した。

 本人に居場所を聞いても、彼女は【実家にはいません】としか答えない。人の手を借りるしかなかった。

 そこで頼ったのは仁だ。彼は一族が経営する警備会社の役員である。場合によっては探偵業務も引き受けてくれるので、香乃子を捜してくれるよう頼んだのである。

 わずかな手掛かりは俺たちの結婚式に参加した彼女の友人。地方に住むの友人もいたから見つけられるが心配だったが、見つかったのは都内の下町だった。

 コーヒーカップを仁の前に置く。

「いろいろありがとうな」

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