そして外交官は、契約妻に恋をする
「その代わりといってはなんですが、小料理屋はしっかり見守ってますよ」

「ん?」

「あそこの息子。今大学生なんですけど昔やんちゃでね、問題起こして、助けてやったことがあって。俺に頭が上がんないんですよ」

 聞けば、酒の飲みすぎや数々の無茶が祟り体を壊して大学は留年したが、親に泣かれ今は反省して真面目になったという。

「香乃子さんが危険な目に遭わないよう、しっかり見張るよう言ってあります」

「そうか」

 どこまでも頼りになる男だ。

「それで、なにかわかったんですか?」

「いや」

 結局話は平行線のまま、原因は見えなかった。

 首を横に振りコーヒーを飲みながら考えた。関係があるかどうかは別として、やはり気になる。

「なぁ仁、一ノ関李花って知ってるか? 青扇でお前の五歳下だ」

 華道の家元の娘だと言うと「ああ」と彼は頷いた。

「あんまりいい評判は聞かないですね。自分の思い通りにするためには手段を選ばないような子じゃなかったかな」

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