そして外交官は、契約妻に恋をする
 仁は予想通りの答えを返し苦笑を浮かべる。

 李花はいかにもお嬢様然としていて、誰かに頭を下げる姿が想像できないような女性だ。悪く言えば、いけ好かない女である。

「気のせいかもしれないが、もしかして今回の件と関わっているのかと思ってな」

 母がおかしな誤解をしている話をした。

「あー、真司さんを狙ってるわけですね」

「そう思うか?」

「ええ。本人より先にターゲットの身近な人間を取り込む。李花らしいやり方だ」

「詳しいな」

 聞けば仁の友人が彼女にストーカー紛いの行為をされた経験があるという。

「家に帰ると彼女がいて母親と仲良くなっていた。まさに今の真司さんと同じですよ。彼の母親も一ノ関の華道を習っていた。そこを窓口に家に入り込んでくる」

 聞きながらゾッとした。

「なんだそれ。だけど俺は結婚しているんだぞ?」

「常識が通じない相手ですからね。香乃子さんを蹴落とすくらいためらいなくするでしょう」

 喉の奥がゴクリと音を立てる。

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