そして外交官は、契約妻に恋をする
『元々私に拒否権はありませんでしたから、望まれれば結婚はしたかもしれませんが、でも真司さんも一年だから私と結婚したんですよね?』

 彼女は淡々と答えたが、俺の目は見なかった。

 俺はどうしても君と結婚したくて。一年と言えば君の気持ちが軽くなると思ったんだと訴えたが、どこまで伝わったか。怪訝そうな様子を見る限り不安が残る。

 強く言ったところで気持ちが伝わるとは思えない。

 桜井家の義父は香乃子に対して高圧的なところがある。彼女は父親の話になると途端に口が重くなる。微笑んでいたとしても、それはあきらめの笑みのように変わるのだ。

 俺まで義父のようにはなりたくない。できる限り彼女に寄り添って解決したいが……。

 これはもう長期戦を覚悟するしかないな。

 今は帰国したばかりでまだ時間があるが、来週から本格的に仕事が始まる。そうなれば時間が取れなくなる。今のうちにせめて同居に持ち込めるといいが……。

 夕べ、香乃子が料理を作っているという小料理屋キ喜に行ってみた。

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