そして俺は、契約妻に恋をする

▼香乃子


 リエちゃんと別れ、仕込みの仕事をしながらランチタイムについて具体的に考えてみた。

 カレーは火の通りが早いキーマカレーにしよう。惣菜は和え物に漬け物、煮物の三種も作れば十分か。真倫を背負うとしても、二時間半くらいならきっと大丈夫だと思う。真倫はおとなしい子だから。

 とにかくひとりで切り盛りできる方法を考えよう。

 あれこれ考えているうち、真司さんのことを忘れていた自分に気づく。

 結局は今のようにふとした瞬間に思い出してしまうが、それでもいくらかはましになった。
 なにしろランチタイムの提案をされるまでは、考えたくなくても彼のことが頭から離れなかったから。

 きっと大丈夫。この一年がそうだったように、日々の生活に身を任せていれば、また少しずつ距離ができる。静かに時間が過ぎて、平穏な日常が戻ってくるはずだ。

「真倫。今日は疲れたね」

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