そして俺は、契約妻に恋をする
 花見に出かけてからずっと家には帰っていない。仕事中もすやすやと背中で寝ていた真倫は、今もベビーカーの中で眠たそうな顔をしている。

 帰ったら早めにお風呂も済ませて寝ようと思いながらアパートに着くと――。

「えっ……真司さん?」

「お帰り」

 唖然とする私に真司さんは、両手にあるケーキの箱と真倫へという大きな袋を掲げて見せる。

「ご馳走になったからそのお礼に」

 そんな、いいのにと言ったところではじまらない。苦笑しつつ「どうぞ」と誘う。

「お仕事はお休みなんですか?」

 この前はスーツ姿だったが、今日の彼はラフな服装をしている。

「うん。いろいろ用事があって」

 考えてみれば彼は帰国したばかりだ。雑多な用事もあるだろう。

 李花さんが脳裏をよぎったが、気を取り直す。彼と彼女の問題は本人たちが考えることで、私は深く考えてはいけない。

 部屋に入るなり、真司さんは真倫に手を伸ばす。

「真倫。元気だったか?」

 抱かせると、彼は満面の笑みを浮かべた。

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