そして外交官は、契約妻に恋をする
 一言ひと言が胸をキュンと刺激して困る。彼は爽やかな晴れの青空のような人だから、いるだけでこの小さな部屋がキラキラと輝く。

 そしてその分、帰った後が寂しくなるのだ。お祭りの後のように……。

 でもそれもあと少しで終わる。彼の東京での仕事が本格的に始まれば、こうしてここを訪れる時間の余裕はなくなるから。

 サワラの西京焼きを焼きつつ、菜の花とアサリのお吸い物を作る。肉じゃがを温めて、きゅうりと大根の糠漬けを切って。

 真司さんがいなければこんなに作らない。夕べは肉じゃがとほうれん草の胡麻和えだけだった。

 心がうきうきしているのがわかって、悲しくなる。

 ふと、お店の昼営業と合わせて、引っ越しも考えようかと思った。

 行き先は今度こそ真司さんにも秘密にしなければ。こんなふうに楽しい時間を過ごすのは自分のためにもよくない。。

 おとといの昼間、母から電話があった。

 会って話したいと言われたけれど、お店の仕事もあるし勝手に真司さんを呼んだ母への抗議も込めて断った。

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