そして外交官は、契約妻に恋をする
『香乃子、どこに住んでいるのかだけでもいい加減教えてちょうだい』

『それよりお母さん、お願いだからお父さんには言わないでね』

 真倫の存在が父に知れて、万が一にも神宮寺家と揉めたりしたら厄介だ。

 真司さんと離婚の話が正式にまとまって真倫の親権も私がこのままとれるまでは、絶対に父には秘密にしたい。

 私を道具としてしか思っていない父は、次の私の利用先を考えて真倫を真司さんに押し付けようとするかもしれない。

『わかってるわ。お父さんにはもちろん言ってないわよ』

 母はそう言ったけれど、真司さんがご両親に真倫の存在を報告するだろうし、結局は時間の問題なのだ。

 あれこれ考えるうち夕食はできあがった。

 狭い台所にはスペースがないので、盛り付けた順番からテーブルの上に置いていく。

「うわ、美味そうだな」

 湯気の立つ肉じゃがに真司さんは相好を崩して、真倫を椅子に移動させて立ち上がる。

「持っていくものはある?」

「じゃあ、これを」

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