そして外交官は、契約妻に恋をする
 確かに聞こえた物が落ちるような音。あれは泥棒が出した物音だったのか。

 ぞっとして喉の奥が苦しくなる。

「どうした?」

 心配になったのか真司さんが来て、私を庇うように後ろに立つ。

「えっと、ご主人様ですか?」

「はい」

 隣の住人も明け方近くに階段を駆け下りる音を聞いたとの証言をしたようだ。

 恐怖で体が震えたが、彼が寄り添ってくれたおかげで落ち着きを取り戻し、記憶にある限りの話をする。

 警察官がいなくなると私も真司さんも溜め息をついた。

「物騒だな」

 お金の心配がなくなったら、もう少しセキュリティーのしっかりしたマンションに引っ越そうと思っているが、きっと彼も不安に思ったに違いない。

「真司さん真倫にミルクをあげてくれますか? お腹が空いていると思うので」

 努めて元気に言うと彼からも「まかせて」と明るい返事が返ってくる。

 ホッとして真倫のミルクを作り、中断していた夕食準備に取りかかった。

 でも、彼の心配は消えていなかったようだ。

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