そして外交官は、契約妻に恋をする
 夕食を食べ終わり、一緒に後片付けをしながら「うちに来てほしい」と彼が言った。

「香乃子、頼むから一緒に住もう。とても心配で帰れない」

「真司さん、心配はわかりますけど、ちゃんと警察の方も来てくれましたし」

「頼む。考えてくれないか? せめて犯人が捕まる間だけでもいい」

 不安なせいだ。美容室のポスティングに来た若い男性も気になった。関係ないとは思うので警察にも言わなかったが、もし――。

 背筋がぞっとした。

「あの……、では、今夜だけ」

 彼がハッとしたように笑顔になる。

「よかった。そうしてくれるか」

 正直私も心からホッとした。今この瞬間彼がいなかったら、真倫を抱えて心配のあまり途方に暮れていたと思う。

 食事を済ませて荷造りをする間、彼には真倫を見ていてもらう。

 一晩だから最小限にと思うのに、オムツや着替えが足りなくなるのが心配で結構な量になってしまった。

「すみません」

「ぜんぜん平気だよ。タクシーで行こう」



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