そして外交官は、契約妻に恋をする
 彼はうれしそうに微笑む。その笑顔にほだされそうになってしまい、そっと視線を外す。

 大丈夫。この素敵な家具も部屋も無駄にはならない。使う人がほかにいるのだから。流されないようにしなくては。今夜一日だけだと自分に言い聞かせた。

「じゃあ、どうぞまず風呂に入って。それからゆっくりしよう」

「はい」

 時刻は八時。食事は済ませてあるので、あとはもうお風呂に入って寝るだけだ。

 リビングのベビーベッドに真倫を寝かせ、ひとまず私用に用意してくれたという部屋で荷物を広げる。

 準備を整えてリビングに戻ると、真司さんがベビーベッドの真倫を覗き込んであやしていた。

「真倫、ほーら、うさぎ」

 その様子を見てふと思った。

 真司さんにお願いしてみようか?

 こんな機会は滅多にない。真倫の記憶には残らないかもしれないけれど、話して聞かせてあげられる。

「あの……真司さん。よかったら、真倫をお風呂にいれてみます?」

 予想通り、彼は弾けたような笑顔を見せた。

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