そして外交官は、契約妻に恋をする
 リエちゃんが泊まりに来てくれて、真倫を見てくれている間に入ったことがあるけれど、アパートのユニットバスは小さい。こんなふうにのびのびと体を伸ばせなかった。

 ああ、気持ちいい……。一時間でも二時間でも入っていたくなる。

 ここに住んでしまえば、毎日このお風呂に入れるんだよ? 真倫が泣いてもここなら周りを心配しないで済むんだよ?

 なにより優しい真司さんがいる。

 甘い。甘すぎる誘惑に身をゆだねたくなってしまう。

 なんとか誘惑を振り切れたのは、李花さんの顔が浮かんだからだ。



 明くる朝、朝食を食べた後に帰ると告げた。

「送るよ」

「えっ、いえ大丈夫です」

「犯人が捕まったかどうかもわからないのに、とてもふたりだけでは行かせられない」

 ウッと言葉に詰まる。

「天気もいいし、散策がてら歩いていかないか? 途中に公園もあって休憩もできる。歩けば意外と近いんだ。行ってみよう」

 そう言って彼は真倫を抱き上げた。

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