そして外交官は、契約妻に恋をする
『ごめん。実は警備会社の役員をしている友人に頼んで、君の居場所は突き止めていたんだ』

 まさか真倫の存在も知っていたのかとハッとしたが、それは違ったようだ。彼の友人は真倫の報告はしなかったらしい。

『俺が直接知るべきだと思ったそうだ』

『そうだったんですね』

 私の実家の話にもなった。

 勘当されてもなお、離婚については有耶無耶にした両家の親について、彼は苦笑しながら『今回ばかりはありがたかった』と言った。

『理由はどうあれ、普通なら一年間このままではいられなかっただろうからな。俺はどうしてもロンドンを離れられなかった。桜井家に離婚を迫られたら一旦は受け入れるしかなかったと思う。それでも、もちろん君を捜したが』

 なぜ?どうして私を捜すの?

 聞いてみたかった。でも、聞いても仕方がないのだと自分に言い聞かせ、瞼を閉じた。

 つらつら昨夜の会話を思い出しながら歩いていると、真司さんが「実はな」と、振り向いた。

「おととい。店にも行ってみたんだ」

 ハッとした。

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