そして外交官は、契約妻に恋をする
「ひとりだったからカウンターに座って。君の料理を食べて、女将さんのおすすめの酒を飲んで。楽しかったよ。君との関係は言わなかった。気を遣わせてしまうと思ってね」

「そうだったんですか……」

 喜代子さんは明るくて気さくな人だ。お客さんとのおしゃべりが気晴らしになると言っていたから、きっと話は弾んだに違いない。



 歩いているうちになんとなく場所がわかってきた。

 昨夜はタクシーがどう走っているのか気にする余裕もなかったが、確かに歩ける距離だ。なにしろここは……。

「さあ、少し休もう」

 昨日、リエちゃんと来た公園である。

 真司さんはいつの間にか用意していたシートを敷き、その上に座った。

 時刻は十時少し前、花見の人もまだ少ない。

「こうして桜を見ると日本に帰ってきたんだなって実感するよ」

 ロンドンでもこの時期に桜は咲く。ピンク色が強い現地の桜が定番で寒いせいか、東京よりも長く楽しめる。

「ロンドンのパークにも、ソメイヨシノがありましたね」

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