そして俺は、契約妻に恋をする
 在外公館に勤務する外交官にとって、パーティーは欠かせない。二百近くある国のナショナル・デー、すなわち国家の日にはどこかで必ずレセプションがある。座したまま、来るもののだけ受け入れていたのでは外交は進まない。そういったパーティー以外にも、客を家に招き食事を振る舞う必要もあるし、夫人同士の交流も見逃せないのだ。

 外交官と結婚することはある意味、外交官夫人という役職につくようなものである。国の代表としての資質が問われるゆえ。簡単には決められない。

 縁談も彼女で五人目だった。

 皆身元がしっかりとした女性で、条件はよかった。

 語学は堪能、学歴も容姿もしかり、むしろ彼女よりも外交官の妻にはふさわしい女性ばかりだったと思う。

 だが、どうしても結婚に踏み切る気持ちが起きなかった。

 いったいなにが気に入らないのか、と親には散々詰め寄られたが、感覚的な問題ゆえに上手く言葉に表せない。

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