そして俺は、契約妻に恋をする
▽真司
▼真司
とりあえず身の回りの荷物をまとめタクシーでマンションに帰り、ワゴンタクシーを調達して残りの荷物を運んだ。
その間、香乃子はずっと緊張した様子を見せていたが、あらかた荷物が運び終わるとようやくホッとしたようだった。
「大丈夫か?」
「あ、はい」
ハッとしたように微笑むが、その笑みは歪んでいた。
怖かったのだろう。あの鍵穴を見ればそれも当然だ。明らかにこじ開けようとした痕跡があったのだから。
「後のことは弁護士に頼んでおくよ。もう心配ない。ここはコンシェルジュもいるから安心して。何より俺がいる」
右腕を掲げるようにして上腕二頭筋を叩くと、香乃子はつられたように笑った。
「ヒーローですね」
「ああ。任せてくれ。日々鍛えているからな」
あははと笑い合ってホッとする。少しは彼女の不安な気持ちも安らいだか。
「気づいたと思うが、ここからキ喜へも歩いて行けるから」