そして俺は、契約妻に恋をする
 アパートから歩いたときよりも二分ほど距離が近い。実際に歩いてみたが危険箇所もなく、安心してベビーカーを押せるだろう。

「――いろいろ、すみません」

「頼むから気にしないでほしい。俺たちは家族なんだぞ? これから一つひとつ話し合っていこう」

 香乃子はうつむいたまま頷いた。

『私たちは――もともと一年間という約束で結婚したんですよね?』

 予想していた通り、一年の約束について触れてきた。やはりちゃんと伝わっていなかったようだ。

 一日遅れのクリスマスの夜、俺たちは愛を確かめ合った。

 どうアプローチしたらいいかと戸惑っていた俺の背中を押したのは彼女だった。

 後になって気づいたが、香乃子にしては大胆な発言だ。表情は真剣で悲痛にさえ見えたのではなかったか。俺はうれしさのあまり多くを見逃していたように思う。

 もしかすると、彼女はあのときから別れを念頭に置いていたのかもしれない。

 俺からきちんと告白していればきっと違ったはず。

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