そして外交官は、契約妻に恋をする
 とにかくしっくりこないのである。自分の隣にこの女性がいて寝食を共にし、家庭を作るという未来図が描けなかった。

 条件だけで決められない自分に嫌気がさしたのもある。結婚なんかしなくてもいいかと思い始めていた。パートナーがいなければ、いないなりに同僚や現地スタッフの助けを借りればいい。親は結婚結婚とうるさいが、ロンドンに行ってしまえばこっちのものである。小言はロンドンまで届かない。

 だから、今回を最後にしようと思っていたし、会う前から期待はしていなかった。

 ところがいざ会ってみると、桜井香乃子は第一印象からなんとなく気になった。

 髪を緩く後ろにまとめ、服は淡いベージュのワンピース。大人っぽい雰囲気を漂わせていた彼女から受けた印象は、感じのいい女性。そこまでは四人の女性と大きく変わらなかったが、彼女はこれまで会った女性と違って、あきらかに俺に関心を示さなかった。

 最初に目を合わせたときに薄く微笑んだだけで視線は落としがち。どこか憂鬱そうでさえある。

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