そして外交官は、契約妻に恋をする


▼香乃子



「真倫、いい子でな」

 真司さんは真倫の小さな手に自分の指を掴ませて揺らし、名残惜しそうに離す。

「じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい」

 ここで暮らし始めて一週間が経った。

 正直今はホッとしている。この安心感はセキュリティがしっかりしたマンションだからと言うよりも、彼がいるからだ。

 それがわかるだけに心は複雑である。

「さあ、真倫、ちょっと遊んでいてね」

 洗濯と掃除を済ませてキ喜に行く準備をしなければ。

 というのも、喜代子のご主人が復帰してきたので、仮営業ということで今日からランチタイムの営業を始めるのだ。

『昼間の二時間の接客なら私が手伝うわ。その代わり夜は良武ががんばるって言ってくれたから』と、喜代子さんが申し出てくれたのである。

 住所の変更もあるので、喜代子さんには正直に事情を話した。

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