そして外交官は、契約妻に恋をする
「ダメよ。ちゃんとどこに住んでいるのか見届けないと」

 溜め息をつきつつ、いい機会かと思い真司さんのマンションにいると報告した。

「よかったわ。それじゃやり直すことに決めたのね?」

 決めてはいないが、ここまできて中途半端にはできない。

 すべてを話せずとも母には知っておいてほしいと思った。私と離婚した後のことを考えると、彼にはスムーズに李花さんと再婚してほしいから。

 意を決して話を切り出す。

「お母さん、一ノ関李花さんって知ってる? 華道の家元のお嬢さん」

「ええ知ってるわ。お母様とは何度かゴルフとかパーティーでお話しているし」

「その李花さんに言われたの。本当は彼は李花さんと結婚するはずで、私は一時的な妻だって」

 驚いたように目を見開き、表情を歪める母を宥めるために続けた。

「私と彼は一年の約束だったって言ったでしょ? だからロンドンで彼女にそう言われたとき納得してしまったの。でも今は疑問に思ってる。真司さんはもしかしたら、なにも知らないんじゃないかって」

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