そして俺は、契約妻に恋をする
振り返ると、外務大臣がイギリスロンドンに到着したニュースが流れていた。
東京では薄手のブラウスだけでもいいくらいだが、十月のロンドンは寒い。テレビ画面の中でタラップを下りる外務大臣も、しっかりとしたコートを羽織っている。
彼はどうしているかしらと思った。
多分あの場にいるはず。外遊が無事に終わるまで忙しく駆け回るに違いない。
健康には気をつけているだろうか。
自分が生身の人間であるとの自覚を忘れているんじゃないかと思うほど無理をしたりするから、ちょっと心配だ。
それなのに、彼は私の心配ばかりしていた。
『香乃子、君はもう少し自分を労ったほうがいい。無理はするなよ?』
優しい人だった。
彼と過ごした日々は現実なはずなのに、夢だったように感じてしまう。
それでも、私の指を掴む小さな手が事実だと教えてくれるのだ。