そして外交官は、契約妻に恋をする
 結婚なんかしたくない。

 そう顔に書いてあるようで、密かに苦笑した。

 感情を隠せないところをみると、器用じゃないのだろう。人柄としては好感をもてるが、外交官の妻には向かないか。

 そう思った矢先、母が彼女に話しかけた。

『香乃子さんは、英語が堪能なんですってね』

 母はこれまでの女性たちにも同じ質問をしている。ある女性は謙遜し、ある女性はTOEICの点数を言った。

 さあ、なんと答えるだろうと耳を澄ました。

 すると彼女はこう答えた。

『仕事柄、外国の方とやり取りする機会が多く、日々勉強中です』

 自信があるともないとも言わない。絶妙でしっかりとした受け答えを意外に思いつつ彼女を見れば、その微笑みは花が咲いたように可憐だった。

 興味をそそられつつ、彼女となら上手くやっていけるかもしれない。ふとそう思った。

 俺に関心のない彼女となら、結婚しても適度に距離を置き、いい関係が築けるのではないだろうか。

< 20 / 236 >

この作品をシェア

pagetop