そして外交官は、契約妻に恋をする
 そう言って彼女に見せられたハートのダイヤモンドの指輪が、まざまざと思い起こされる。

 あれが嘘だなんてことがあるのだろうか?

 あんなふうに堂々と嘘をつける人がいるんだろうか。

 考え込んでいると、スマートフォンが音を立てた。

 見れば真司さんからのメッセージで、ナオミさんの来日を告げる報告だった。

【家に招いてもいいか?】

 私もナオミさんに会いたい。【もちろんです】と返信する。ロンドンに帰らなかったことに対して聞かれるかもしれないが、それはそれだ。ナオミさんは無理に聞き出そうとするするような人じゃない。

 今晩来るというので、料理の準備をしなければ。真司さんのメッセージには宅配の寿司で十分だとあるが、それだけというわけにはいかない。和食が好きな彼女のために煮物と酢の物に汁物を作ろう。

 私は料理が好きだ。料理をしている時間は、嫌なことも面倒なこともすべて忘れられる。

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