そして外交官は、契約妻に恋をする

　さっそく料理と日本酒を楽しんでもらい、リビングで真司さんとナオミさんのご主人が二人で話が盛り上がっていると、ナオミさんがコソコソと私をダイニングテーブルの方に引っ張った。

「香乃子がいない間に、変な女が来たのよ。もちろん真司さんは浮気なんかしない人だから心配はないけど」

　長い黒髪の気取った美人だと聞いて、ああやっぱりと思う。

「なにがあったんですか？」

　ナオミさんによると、年末年始の大使館の休みに合わせて彼女はロンドンに現れた。

　だが真司さんは仕事があり大使館にいたそうだ。すると大使館に押し掛けてきて〝私ひとりじゃ不安なんです〟〝真司さん一緒にいてください〟と泣き出したという。

　彼は毅然とした態度で彼女を叱責したそうだ。

「警備員から聞いたのよ。真司さんは『あなたを中心に世界が回っているわけじゃありません』ってビシッと言い切ったんだって」

「それでどうなったんですか？」

「知り合いの旅行コンダクターに連絡して、彼女を引き渡したそうよ」