そして俺は、契約妻に恋をする
 動揺はなかった。彼女は真倫の存在を知らないのだ。真倫の名前がない以上、これは偽物。あるいは真倫が生まれる前に取ってものかもしれないが。

 よく見ようと手を伸ばすと、彼女は取られまいと封筒の中に謄本をしまう。

「李花さん、私は彼と別れるつもりはありません。今日はそれだけを言いたくて来ました」

 コーヒーを飲み、カップを置いた彼女は、なにも言わずに不敵な笑みを口もとに浮かべる。

「では、失礼します」

 そのまま彼女を残し、席を立った。

 自分の考えを言えただけでも収穫があったとしなければ。

 あの謄本はきっと偽造だ。そこまでするなんて普通じゃない。薄ら寒い思いがした。




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