そして外交官は、契約妻に恋をする
 香乃子は残念だろうが、俺は心配が先に立ち、そうして欲しいとお願いした。

 タクシーを呼び、香乃子を連れてマンション経由で送ることにした。喜代子さんも心配だからそうしてと勧めてくれた。

「大丈夫か?」

「はい。それより、すみません……」

「なにを言ってるんだ。心配くらいさせてくれよ、夫なんだぞ? 君の」

 言い方がおかしかったのか、香乃子がクスッと笑う。

「そうですね、真司さんは優しい旦那さまです」

 ギュッと彼女の肩を抱く。

 そうだ。君は俺の愛する妻だ。

「なあ香乃子、李花さんなのか? この前君が会った相手は」

 返事を聞くまでもなく彼女は李花の名前にハッとしたように目を見開いた。

 いろいろ聞くには時間が少ない。タクシーはすぐにマンションに着き、香乃子と真倫を下ろす。

「帰ったらゆっくり話を聞かせてくれ」

 頷く香乃子がベビーカーと一緒にマンションの中に消えるのを見届けて、再びタクシーに乗る。

 李花の仕業か。

 ひとまずすぐに李花に電話を掛けた。

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