そして外交官は、契約妻に恋をする
 帰国後、彼女からしつこいぐらい電話があった。無視していたが、李花はすぐにでた。

『あら、真司さん』

「今晩会えますか?」

『ええ、もちろんよ』

 場所と時間を告げて電話を切った。

 いったいどういうつもりなのか。

 あれから何度か母と話をして誤解は解いてあるが、母はなかなか信じられないようだった――。

『李花さんが俺と結婚すると言ってたのか?』

『そういえば……結婚したら、とは言ってたけど、結婚するとは言ってはいないかもしれないわ』

 俺と結婚すれば同居するとか、母の華道教室を手伝うとか、一緒に旅行しましょうなどと夢のように語っていたという。

 母はそんな話を聞く度に、俺が彼女と再婚するつもりでいると、思い込んでいたと。

『だって、李花ちゃんは言ってたわよ。真司さんともそういう話をしてるって』

『するわけがないだろう? 俺の妻は香乃子だけだよ。何度言えば納得してくれるんだ』

 何度も繰り返す度に、母もようやく李花の異常性に気づいたらしい。

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