そして俺は、契約妻に恋をする
「私は真司さんに目を覚ましてほしいの。それだけよ。ねえ真司さんこのカクテルとっても美味しいわよ飲んで」

 気持ちを落ち着けるように、グラスに口をあてた。

 よく冷えた甘酸っぱい液体が、喉を冷やしながら落ちていく。

「とにかく、君とは関係ない。俺も香乃子も君の身内でもないただの他人だ。君が執着していい理由がない。法的措置を取らせてもらう」

 言うだけいって席を立つと、ぐらりと足もとが歪んだ。

「じゃお会計お願いします」

 李花の声を聞きながら外に出ると、男三人に囲まれた。

「さあ皆さん彼を運んでちょうだい」

 なるほど、やっぱりな。

 足もとをぐらつかせたのは、そう見せただけの演技だ。手を伸ばしてきた男の腕を捻りあげる。

「イテテ」

 ふざけるな。

 別の男が「このやろー!」と、叫びながら襲いかかってきたが、そのままなぎ倒した。

 武道はお手のものだ。海外勤務は安全な場所だけじゃない、常に危険と隣り合わせの日々を生き抜くために常に体を鍛えている。

 外交官をなめるなよと胸の内で毒づいた。

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