そして外交官は、契約妻に恋をする
「大丈夫。そのために警備会社の役員である友人に駆けつけてもらったんだ。待ち合わせた店もこっちの関係者。事前準備は怠らなかったからね」

 そして彼は「スーツがダメになったのは予想外だけど」と笑った。

「真司さんたら」

 思わず笑った。彼は私が思う以上に強くて逞しいのだ。

 その後も何度か電話が鳴って、十時にはそれも落ち着いた。

 真倫をベッドに寝かせて、私たちは久しぶりにワインを開けた。明日は土曜日で、真司さんの休日出勤もない。

「香乃子。君に起きたすべてを話してくれないか?」

 私は頷いて、記憶にある限りの話をした。

 ロンドンで李花さんから〝あなたは一時的な妻〟だと言われたことや、彼女が真司さんから約束のしるしにプレゼントされたと指輪を見せられたこと。つい最近彼女に会ったときに戸籍謄本を見せられた話もした。

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