そして外交官は、契約妻に恋をする
「だからお見合いの席で一年の約束って言ってたのねって、納得してしまったの。真司さんのお義母さまとも親しそうだし、あんなふうに堂々と嘘をつく人がいるとは思わなかったから」

 真司さんは私の肩を抱いて「そうだったのか」と溜め息をついた。

「指輪は彼女が自分で買ってたよ。記念になにか買ってほしいとせがまれて、俺はショートブレッドを買って渡した。後に残るものは渡したくなくてね」

「そうだったんですね」

「母も彼女の本性を知る事件があって、今では華道教室も行っていない。母は誤解していたんだ。俺が君と結婚したいばかりに一年でいいと口走った話を勘違いしていた。一年という言葉だけを記憶して――」

 真司さんは私から手を離し頭を抱える。

「俺が一年と言ったばかりに、こうなってしまったんだよな……」

 慌てて彼の肩に手をかけた。そうじゃない。

「真司さん大丈夫ですよ? 私は一年と言われて気が楽になったし、外交官夫人という職業だと思ったらいいと言われて、頑張れたんです」

「香乃子?」

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