そして外交官は、契約妻に恋をする
「それなのに、いつの間にか好きに――」

 ハッとしたように、真司さんが私に向き直る。

「ちょっと待って」

「えっ?」

「今度こそ先に言わせてくれ。香乃子、俺はお前が好きだ。一年と言ってしまった手前、君に触れられなくて。君に嫌われたくなかったから」

 真司さん……。

「俺は君が欲しくて仕方がなかった」

 そんな。

「私は、契約妻だらだとばかり」

 ぎゅっと抱きしめられた。

「俺はずっと好きだった。気持ちに気づいたのは結婚してからだが、結婚前に君の部屋に入ったときにはもう、君しかいないと思ったんだ」

 体を離した彼の長い指が、私の両頬を包み込む。

「でも私でいいんですか? 私には李花さんのような華はないから」

「なにを言うんだ。君は俺の目には眩しいくらい輝いているぞ? 君しかいないんだ、香乃子」

 瞼を閉じると、涙が頬を伝った。

 本当に私でいいの?

 その涙を彼の指先が拭う感触がして、次に唇が重なってくる。

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