そして俺は、契約妻に恋をする
 スーツは弁償してもらえと仁は言ったが、一ノ関に関わるものは間違っても身につけたくない。

「だけど大丈夫なんですか? 大臣あそこの票欲しいんじゃ?」

「頭を下げてくるのは一ノ関だ。問題ない。仁のおかげで状況証拠バッチリだからな」

 こじらせて祖父が出てくると厄介だった。祖父は計算高い。キ喜の情報サイトの件が耳に入れば、香乃子を見捨てろと言ってくる可能性もあった。李花と結婚でなくても、別の女性を押し付けてきたに違いない。もちろんそんな話は受け入れないが、祖父のことだ。香乃子になにをするかどうかわからない。

 香乃子の父が出てきても大変だったし、飛んで火にいる夏の虫とでもいうか。タイミングもよかった。

「しかし仁、お前も元気だな。こんな時間だっていうのに」

 仁は笑って隙あらば寝てるから、と肩をすくめる。

「移動中とか、今日も警察出たあと、車ん中でひとしきり寝たし。俺、ショートスリーパーなんですよ」

 ここで客が運んでくる事件を聞き逃したくないしと、仁は笑った。



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