そして俺は、契約妻に恋をする
 随分早いが、それだけ一ノ関家も必死なんだろう。弁護士は一ノ関李花が書いたという念書を持ってきた。

 今朝方、うちの弁護士から状況は聞いている。

 なにしろ証拠は全部揃っている。集められた三人の男はそれぞれネットで三万で引き受けたが〝酔った恋人の男性をホテルまで運ぶ〟という力仕事だと聞いていたらしい。ところが俺は酔ってもいなかったし、捕まえようにも思いのほか強く、話が違うと言っているとか。

 こっちからは弁護士を通し、李花にされた一部始終を文書にして渡した。

 李花は号泣して知らないとしらばっくれていたようだが、情報開示請求を提出しているなどのこちらの言い分を聞き、言い逃れできないとあきらめたのだろう。情報サイトの書き込みも、香乃子にしてきた脅迫まがいの嘘もすべて白状した。

「訴えを取り下げてくれるなら、とにかくなんでもしますとご両親共々平謝りでして」

 母親は家元。父親はそれなりの企業の社長だ。当然必死だろう。

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