そして外交官は、契約妻に恋をする
「取り下げてもいいが。彼女がまた香乃子になにかする心配は消えないからな。現に彼女はこれまでも問題を起こしては両親が金でもみ消してきたそうじゃないか。一度ちゃんと逮捕された方がいいと思うが」

 相手の弁護士は苦笑を浮かべる。

「俺を拉致してどうするつもりだったって?」

「はぁ……」

 既成事実を作ればなんとかなると思ったとはさすがに言えないのか。隣に香乃子もいるのでそれ以上追及するのは止めた。

 弁護士がおずおずと聞いてくる。

「なにかあった場合の約束事を決めるのはどうでしょうか?」

「約束事ねぇ」

「ええ。とにかくもう二度と神宮寺様には近づかないと約束してますが、それでもご心配でしたら念のため」

 約束事とあれこれ考えて閃いた。

「だったら彼女の一族が、金輪際家元を辞めるというなら納得しよう」

「えっ、そ、それは李花さんとは関係ない……」

 顔色を変える弁護士に畳かかける。

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