そして外交官は、契約妻に恋をする
「彼女が悪さをしなければ済む話でしょう? 彼女の行動にはそれくらいの責任があると思いますよ? 罪なき女性を陥れ、男を雇って外交官を拉致――」

「わ、わかりました! ええ、そうですね」

 一ノ関家は百年以上家元を続いている名家だ。次の家元は李花ではなくいずれ兄が継ぐと聞いている。聞くところによると兄の方は真面目な男のようなので心配はない。家を守るために、家族で必死になり李花を改心させるだろう。李花自身、犯罪者になる勇気はない。

 というわけで条件を返し、ひとまず念書を受け取った。

 弁護士を見送ると、香乃子が苦笑する。

「いくらなんでも家元を辞めるというのは」

「なにもしなければいいだけだ」

 不安そうな彼女の頬にキスをした。

「心配か?」

 彼女はふるふると首を横に振る。

「大丈夫だ。今度こそ彼女はおとなしくなる」

 情報サイトもあれきり書き込みはない。犯人は李花ひとりだった。スマホを何台も使って書き込みをしたらしい。

「さあ、お茶にしよう。俺が淹れるから」

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