そして外交官は、契約妻に恋をする
 香乃子は真倫にミルクをあげて、俺たちは弁護士が持ってきた老舗和菓子店のきんつばをいただく。

 日本茶も改めて味わうと本当に美味い。しみじみ思いながら、聞いてみた。

「キ喜はこれからどうする?」

「これを機会に辞めようと思うんです。やっぱり真倫を連れて歩くのは無理があるなと思っていたんです。おとなしい子ですけど、お店はいろんな人が出入りしますし」

「香乃子、敬語」

 パッとしたように彼女は口を手で覆った。

「つい癖で」

 約束したのだ。もう敬語は使わないと。

「実は一つだけ聞きたいことがあったんだが」

 李花が見せてきた写真の男だ。なにもないとは信じているが、やはり気になる。

「ロンドンで助けた男性が、店の客にいる?」

「ああ、はい。本郷さん。ロンドンの百貨店で置き引きに合った人。覚えてる? 私がセキュリティースタッフに伝えて」

 思い出した。

「ビジネスマンな?」

「そうそう。近くの商社にお勤めらしくて、よくお店に来てくれて。彼がどうかしました?」

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