そして外交官は、契約妻に恋をする
「いや、その……」

「あ、もしかして李花さんになにか言われた?」

 香乃子は頬を膨らませてツンと横を向く。

「疑ったんだ」

「違うって。疑ってなんかないさ。ただ心配だったんだよ」

「知らない」

 逃げようとする彼女を捕まえてソファーに押し倒す。

 香乃子は「聞いてくれてよかった」とクスクス笑う。

「本郷さんは結婚していて、奥さんと一緒に来たときもあるの」

「そうか」

「こうして、一つひとつお互いに聞いていけば、誤解もせすに済む」

「ああ、そうだ」

 唇に軽くキスを落とし、ソファーに座り直す。

「でも、店を持ちたいという夢はいいのか?」

「あきらめたわけじゃないですよ。夢は変わったの」

 フフッと笑う彼女が愛おしくて、肩を抱き寄せる。

「私、外交官の妻として、習いたいこともあって」

 瞳を輝かせながら書道と和菓子作りが習いたいのだと言った。

「君は働き者だな。また職業、外交官夫人をやるのか?」

「そうよ。あなたが外交官でいる限り、私は外交官夫人を貫くわ」

 笑いながら吸い込まれるようにキスをした。

 もう二度と離さない。そう誓いながら。






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