そして俺は、契約妻に恋をする
「まあ、夫婦喧嘩もときには必要だ」
父のもっともらしい物言いにクスッと笑う。
「まりーん。おじいちゃんだぞ」
しかも呆れたことに父は真倫にメロメロだった。
真司さんと目を合わせ苦笑し合う。
「まぁ香乃子はおとなしそうに見えて頑固だから、よろしく頼むよ真司くん」
「いえ、こちらこそ。お騒がせして申し訳ありませんでした」
玄関を出ると、母が一緒に出てきた。
こそこそと私に耳打ちする。
「ああ見えてお父さん、実は全部知ってたのよ」
「えっ? 全部って?」
「香乃子がどこに住んでいるか。どこで働いているかも全部よ」
なんと、アパートの隣の部屋に住んでいた高齢の女性と直接連絡を取り合っていたというのだ。
「くれぐれも香乃子をよろしくって。キ喜の女将にも会いに行っていたそうよ」
信じられない思いを抱えたまま車を乗ると、なにも知らない真司さんが「よかったな」とホッとしていた。