そして俺は、契約妻に恋をする


▼香乃子

 ロンドンに来て、半年が経った。

 東京よりもずっと涼しくて過ごしやすい夏が過ぎ、秋を迎えている。

 こちらの秋も気温は東京とそう変わらないけれど、乾燥にはまだ慣れない。ここに来るまでは、真冬でもないとハンドクリームを塗らなかった私でも、ずっとクリームを手放せない。いい加減に済ましていた基礎化粧も今では入念にしっかりと施している。

 肌荒れは落ち着いたかな。

 洗面所で鏡を覗き込んでいると、横からひょっこりと顔が伸びてきた。

「おはよう」

 ハッとして横を向くと目と鼻の先に真司さんの顔があって更にうろたえてしまう。

「おはようございます」

 彼はシャワーを浴びるらしく、慌ててその場を離れる。

 私たちは夫婦になったとはいえそれは形だけ。寝室は別だし、スキンシップといえばせいぜい軽いハグくらいだ。結婚式でもキスはしていないから、本当に清い関係である。

 夫婦なのに清い関係と言っていいのかはわからないが。

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