そして俺は、契約妻に恋をする
 それでも私は今の生活が気に入っている。

 自由を手に入れた伸び伸びとした気分だ。実家を離れただけでこんな気持ちになるなんて、よほど実家が重荷だったんだなあと、しみじみ思う。

 とはいえ外交官の妻は予想以上に大変だ。

 昨夜もレセプションがあり私も妻として参加した。

 毎度のことながら、参加するにあたって主催者や趣旨、それに参加者についてあらかじめ調べておく必要がある。真司さんは無理しなくていいと言ってくれるけれど、私は可能な限りがんばりたい。

 結婚当初、彼は言った。

『外交官夫人という仕事だと思えば、少しはやりがいみたいなものが見つけられるか?』

 私の部屋でシップブローカーの本を見たときに気づいてくれたらしい。仕事を続けたかったんじゃないか?と聞いてくれた。

『外交官の仕事も、君がしてきたこととそんなに変わらないと思うよ。例えば君が外国人と仕事をする上で気をつけてきたのは、どういうこと?』

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