そして俺は、契約妻に恋をする
『国籍に関わらずですが、相手から信頼を得る。外国人とのやりとりはネイティヴよりも正確さを大切に。とかでしょうか』

『その通り、同じなんだ』

 彼がそう言ってくれたおかげで、気持ちの切り替えができるようになった。お客様を招待し、おもてなしをしてお客様を見送り片付けをする。そこまでが外交官夫人としての仕事だ。終わったらスイッチを切って私に戻る。

 今日は外交官夫人のお仕事はない。彼もお休みだ。

 夕べ帰りが遅かった彼と話はしていない。

 お昼はどうするだろう。食事に出かけるのか、家でのんびりするのか。

 すでに時刻は十時を回っている。

「あ。珍しくいい天気だな」

 シャワーからでて部屋着に着替えた彼が、窓際に立って空を見上げた。

「そうなんですよ」

 十月になり、ロンドンの空は曇りがちになった。聞いたところによれば、これからますます曇天が多くなるらしい。

「せっかくの晴天だ。ピクニックに行かないか?」

「行く。行きましょう、ピクニック」

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