そして外交官は、契約妻に恋をする
 向かったのは私たちが住んでいるフラットからすぐそばのセント・ジェームス・パーク。在英国日本国大使館からほど近く、大使館とウエストミンスター寺院との間にある。ロンドンにある八つの王立公園のひとつで、湖越しにバッキンガム宮殿も見える、とても広くて美しい公園だ。

 散歩する人、芝生で寝転ぶ人。皆、貴重な青空を満喫している。

 私たちふたりも、咲き誇る秋のバラを楽しみながらのんびりと歩いた。

「気持ちいいなぁ」

「ほんと。こんなにいい天気なのは久しぶり」

 ここに住んでみて、みんなが日光浴する理由がわかった。間もなく迎えるロンドンの冬は日照時間が短い。朝八時頃から午後四時頃までしか明るくない。空はどんよりとして冬季鬱になる人も多いそうだ。

「これからは休日に晴れたら必ずピクニックをしような」

 大きく頷くと、彼が手を出した。

 戸惑いつつ右手を差し出して手を繋ぐ。

 彼の手から伝わる温もりが、心まで温めてくれるような気がする、

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