そして俺は、契約妻に恋をする

 まさか食べちゃうとは思わなかった。もし汚いものようにティッシュで拭われてもそれはそれで悲しいのだろうか?

 よくわからない。

 気を取り直し、残ったおにぎりを口の中に入れる。――海苔が唇に付かないように気をつけて。

 彼はごろんとシートに背中をつけて寝そべった。

 眩しそうに空を見上げる彼は「気持ちいいよ」と私を振り向く。

 少し迷ったけれど履いてきたのはイージーパンツだ。思い切って私も寝そべってみる。

「気持ちいいー」

 こんなふうに外で寝そべったのは、もしかして人生初かもしれない。少なくとも大人になってからは初めてだ。

「立って見上げるのとは違いますね」

「そうだな。自分をさらけ出しているような気分だ」

 確かにそんな気持ちになる。さらけ出して心に潜む澱を日の光に綺麗にしてもらっているような感じがする。

 彼が触れた唇がジンジンする。

 太陽よ、どうか心に残っている疼きを消して欲しいと願ながら瞼を閉じた。





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