そして外交官は、契約妻に恋をする
 ペンダントトップは真珠とダイヤモンド。清楚な彼女によく似合うはずだ。

「これは普段用に。いつもがんばってくれているお礼だ。お揃いのイヤリングもある」

「えっ?」

 驚く彼女の背中を押して鏡の前に連れて行くと、彼女は目を丸くして「うわぁ」と感激し、案の定戸惑いを見せた。

「可愛い……で、でもこれは」

 恐らく価格を気にしているんだろう。彼女が着替えている間にこの店で選んだのだが、ここはハイブランドだ。ネックレスは小さいがドレスよりも高額である。でもそんなことは関係ない。

 ロンドンに来てから毎日毎日ネットや雑誌でロンドンの情報、各国のニュースや在留邦人の組織など黙々と調べている彼女を、俺は知っている。

「気にしないで受け取ってほしいんだ。君が食事に気を使ってくれるおかげで、俺は本当に助かってる。どうしてもお礼がしたいんだよ」

 鏡の中の彼女を窺うように覗き込みむと、香乃子はあきらめがついたのかにっこりと微笑んだ。

「ありがとう」

「イヤリングもつけてみるといい?」

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